――精液の匂いで、目が覚めた。
目の前には、ベッドに座っている堅物そうな男がいて、下着姿で虚空を眺めていた。
「私……」
ん、と彼は私の方を振り向く。
「気付いたか。そんなに時間経ってないから安心しな」
私はベッドから体を起こす。気だるい。セックスの後は大抵こうだ。
気分が良いときは気だるさに加え、心地よさがあるのだが、今日は気分は良くなかった。寧ろ鬱っぽい。だから、気だるいだけだ。
短く切った髪をかき上げる。多少頭痛もする気がする。手で顔を覆った。
「ちょっとやりすぎたか?」
「……あんまり関係無いと思う。朝から鬱だったのよ」
「したくなかったら、言っていいんだぞ?」
「馬鹿。それだと貴正(たかまさ)君が性欲溜まるでしょうが。いいのよ、私達はそういう関係でしょ……」
彼、貴正は沈黙し、精悍な顔をしかめた。
私達は、恋人同士じゃない。セックスフレンドだ。
「……大学で、何かあったのか」
貴正は眼鏡をかけながら言った。眼鏡をかけると、彼は本当に真面目そのものに見える。実際真面目だけれど。
「別に……。レポートが上手くまとめられないだけ」
「手伝うか?」
「貴正君の専門外よ……」
「そうか……」
私の大学の学科は心理学関連、彼の大学の学科は経営学関連。
大学自体違うし、学力のレベルだって全然違うのだ。
貴正とは、中学からの知り合いで、高校二年生の時に肉体関係を持った。彼の家に行ったとき、半ば犯す様に。今考えると最低だったかもしれない。
「今日、宿泊にした?」
「いや、三時間だ。どうする? 帰るか?」
「……うん。帰って、薬飲んで寝るわ」
「そうか」
のそのそと私は服を身に着ける。
飾り気の無い下着、地味めな服。本当に私は冴えない女だと思う。
「……ねえ、貴正君」
貴正は、私がのろのろとしている間に服を着てしまっていた。
黒いシャツに、青いジーンズ。彼の服装は浮ついた感じが無く、私は好ましく思っている。
「なんだ」
「彼女できた?」
「いや」
「そう……。前から言ってるけど、私みたいなつまらない女、いずれ飽きるわよ」
「……」
「さっさと彼女つくって、私みたいなのとは関係切りなさい。性欲処理には使っても良いけどね」
「お前に不満は無いよ。下らんこと言ってないで、早く帰るぞ」
「……わかった」
私達は、ホテルを後にした。
†
深夜の住宅街を歩きながら、私達は軽口を叩いていた。
五月の夜は、それなりに涼しい。私はカーディガンの前を閉めた。
「別に送ってかなくていいのよ?」
「深夜なんだ。危ないだろうが」
「……私みたいな女、誰も襲わないわ」
「馬鹿なことを言うな」
「ふん、どうせ馬鹿よ」
「……」
貴正は、優しいと思う。誠実だし、もてると思うんだけどな。
どうして彼女をつくらないのだろう。あまり興味が無いのかな。
「君塚(きみづか)」
「なに」
「お前は?」
「……何が」
「恋人だよ。大学にいい人いないのか」
「……そもそも友達自体できてない。授業の班で一緒になった男子二人と女子二人。割合話せるのはその四人くらい」
「その男子に興味は無いのか」
「……別に。一人は今風の軽そうな子。もう一人は見た目クール系だけど、ウブそうだったかな。私の目、見ようとしなかったし。私の好みとはちょっと違う」
「お前の好みってどんな男なんだ」
「え? と、ね……。うーん」
ちょっと考えてみる。今まで私はどんな男子を好きになってきただろう。
どんな恋愛をしてきたか、思い出せない。というか恋愛自体よくわからない。
私が深く関わってきた男子は、貴正くらいしか思いつかない。
――案外、貴正みたいなタイプが好きなのかもしれないわね。
そう思ったが、なんとなく照れくさかったので、よくわからないと答えた。
「まあ、別にいいけどな」
貴正はそこで話をやめた。あまり興味も無かったのだろう。
そうしている間に、私の住んでいるアパートに着いた。
それなりに新しい、学生向けのアパートだ。
「ありがとう、送ってくれて」
「気にするな」
「寄ってく?」
「いや、いい。早く薬飲んで休みな」
「うん、……そうする」
「じゃあ、またいつか」
「じゃあね」
私は、彼の逞しい背中を見送った。
さて、レポートは明日と明後日の休日でやるとして、今日はもう寝よう……。
シャワーを浴び、睡眠薬を飲んで、その日は寝た。
憂鬱な気分のままで。
†
なんとかレポートは完成させた。心理学の授業でそれを提出し、英語の授業はなんとかこなし、月曜の授業は終わり。
そして今は学生ロビーで知人(友人という程、仲が良くない)とバスの時間待ちだ。
「でさあ、卵焼き焦がしちゃったんだけど、彼は美味しいって言ってくれてー」
「らぶらぶねえ、羨ましいなー。私の彼氏はそっけないのよねぇ」
知人達は楽しそうに談笑している。私はどうも女の子らしい会話が苦手で、話を振られるまで黙っていることが多い。
女三人寄れば姦しい。高校時代に集まっていたグループの女子は、集まれば他人の悪口ばかりだったので嫌な感じだった。大学の知人達は基本男子……というか彼氏の話ばかり。別に構わないのだけど、他に話すこと無いんだろうか。私だって、人のことは言えないんだけど。
「ねえ、君塚さんは? 彼氏いるの?」
「ううん。いないの」
「そっかー、でも気にするなって! いずれできるさー!」
「うん、そうね。そうだといいわね……」
本当に。本当にそう思う。
でも、私みたいな暗い女には、誰も振り向かないだろう。
「えー君塚さん彼氏いないの?」
横から聞こえてきたのは、授業で同じ班の、軽そうな男子の声だった。
その男子の隣にいるもう一人の男子も、同じ班の男子だった。
「なによぅ山村。盗み聞きとは趣味が良くないぞー」
「そんな大声で盗み聞きも何もないっしょ、なあ紀之」
「……まあね」
軽そうなのが山村で、クール系が紀之か。紀之とやらは肩をすくめる。
山村が私に近づいてきて、言った。
「今日この後用事ある?」
「……無いけど」
「フリーならさあ、今日これから遊びに行かねえ?」
「早速? 山村、あんたがっつきすぎよぅ」
女子達が囃し立てる。山村の見た目通りの調子いい性格は、高校の頃からそうらしい。
「どうだい?」
「ごめんなさい。今日は疲れちゃって……」
半分嘘だけど。こんな軽い男のナンパには付き合ってられない。
「あー、そっか。OKOK。また機会があったら誘うよ」
振られちゃったねーとか、女子達は言う。山村はフランクな感じに女子達に対応していた。人付き合いが上手いのだろう。私とは大違いだ。
それから、バスに乗って帰宅。私だけは途中で下車。知人達はほぼ全員終点まで行くそうだ。
停留所から五分も歩けば私の住んでいるアパートがある。ちなみに、アパートから十分の距離にはラブホテル。いつも私と貴正が使っているところだ。割合安めで、財布には優しい。
まあ、お金が勿体無いなら私の家か貴正の家を使えばいい話なのだが、貴正がそれは駄目だ、ぐだぐだな関係になるのはごめんだろう、と言ったので大人しく従っている。
お互い一人暮らしだから、節操無く求め合ってしまう可能性がある、ということなのかもしれない。
別に私は、そうなってもいいのに。
私は家に入るなり、鞄を足元に放り、ベッドに倒れこんだ。
面倒くさいと思う。何が、というわけではなく、何もかも。
貴正に抱かれているときだけは満たされるような気もする。体を求め合う、ということは安易な生き甲斐を得る方法なのかもしれない。
特に明日提出のレポートとかは無いから、このままだらだらしていようか。それともさっさと夕食を食べたりした方がいいだろうか。
「あー……」
面倒くさい。だるい。このまま死にたい。
だらだらしていると、唐突に携帯電話が鳴り出した。
マイナーなバンドの着信メロディ。これはEメールだ。
起き上がって、鞄の中から携帯電話を取り出した。
ネイビーブルーで、ストラップは無し。私の性格が表れてると思う。
中学時代の、彼氏からのメールだった。
彼とは別れた後も友達として関係は続いている。
そもそも、仲が悪くなったから別れたんじゃない。だから、いい関係のままなのは当然だ。彼とは、気が合いすぎたから別れた。
彼――木村正(きむら ただし)と私は、似たもの同士だった。
否、似たもの同士というよりも、同類。正と私は、同じ心の形をしていた。
正も、鬱病だった。鬱の他に、アレルギー体質――アトピー――でもあり、私よりもコンプレックスの根は深かった。
私達はお互いの傷を舐め合うように、恋愛関係に堕ちていった。
そんな爛れた関係が一年程続き、やがて正は言った。このままでは、僕達は成長できなくなる、と。そうして、私達は別れ、ある程度の距離を持った友達として接するようになった。
メールの内容は、簡単な近況報告と、私の現状を問う内容だった。文面は自虐で彩られ、相変わらずの暗黒系であることが分かる。そして、私に対しては優しいのも相変わらずだ。
『無理してない?』と彼は必ず聞いてくる。心配してくれるのは嬉しい。だが、彼の場合は自分のことを第一に考えるべきなのだ。
私は近況の後に、『大丈夫、心配しないで』と付け加えて返信する。彼を心配させたくはなかった。
恐らく、私達はまだお互いを好きなのだ。正のことは、失いたくないと思う。
「ふう……」
携帯電話を閉じる。そして鞄に放る。
なんだか急に、切なくなってきた。正直、愚痴を言いたい。
人間関係は疲れる。大学の授業も面倒。生きている意味も感じられない……。
無趣味なのがいけないのかもしれない。音楽もそれなりには聴く、本、小説もそれなりには読む。が、熱中する程好きではない。
机の上に置いてある、カッターナイフを無造作に掴んだ。
紅い柄の、お気に入りのカッターナイフ。それはリストカット用に使っていた。
カーディガンを脱ぎ、左手の袖を捲る。そこには、横に数本ほど切られた痕がある。半分ほどは既に治りかけ。
「……」
刃を少し出し、手首に当てる。
私はそこで思い直した。ベッドを汚すわけにはいかない。洗面所まで移動する。
鏡の前に立つ。
そこには見慣れた、無表情の女の顔がある。
不細工、とは思ってない。だけど少なくとも、美人じゃあない。
胸はそれなりでしかない。
ウエストは細いわけじゃない。
脚も長いわけじゃない。
私は、一体なんなのだろう……。
手首にカッターを押し当て、ぐっと押した。
皮を破り、肉を傷つける。
「……っ」
神経が痛みを脳に伝える。虚無感が、冷たい熱さによって上書きされる。
傷口からは、血が出て、球になる。
それから一気に横に引き、切り裂く。
「っ……うぅ……」
新しい目蓋から、赤い紅い涙が流れる。
――何がそんなに悲しいと云うのかしら。私はこんなに悦んでいるのに。
「ふふ……」
洗面台に血を落としながら、痛みを味わう。
痛い、痛い、痛い、痛い……。
鋭い痛みが脳に伝わってくる。
私はこれが落ち着く。
――ああ、生きている。
私はしばらく、痛みと言う悦びを感じていた……。
目の前には、ベッドに座っている堅物そうな男がいて、下着姿で虚空を眺めていた。
「私……」
ん、と彼は私の方を振り向く。
「気付いたか。そんなに時間経ってないから安心しな」
私はベッドから体を起こす。気だるい。セックスの後は大抵こうだ。
気分が良いときは気だるさに加え、心地よさがあるのだが、今日は気分は良くなかった。寧ろ鬱っぽい。だから、気だるいだけだ。
短く切った髪をかき上げる。多少頭痛もする気がする。手で顔を覆った。
「ちょっとやりすぎたか?」
「……あんまり関係無いと思う。朝から鬱だったのよ」
「したくなかったら、言っていいんだぞ?」
「馬鹿。それだと貴正(たかまさ)君が性欲溜まるでしょうが。いいのよ、私達はそういう関係でしょ……」
彼、貴正は沈黙し、精悍な顔をしかめた。
私達は、恋人同士じゃない。セックスフレンドだ。
「……大学で、何かあったのか」
貴正は眼鏡をかけながら言った。眼鏡をかけると、彼は本当に真面目そのものに見える。実際真面目だけれど。
「別に……。レポートが上手くまとめられないだけ」
「手伝うか?」
「貴正君の専門外よ……」
「そうか……」
私の大学の学科は心理学関連、彼の大学の学科は経営学関連。
大学自体違うし、学力のレベルだって全然違うのだ。
貴正とは、中学からの知り合いで、高校二年生の時に肉体関係を持った。彼の家に行ったとき、半ば犯す様に。今考えると最低だったかもしれない。
「今日、宿泊にした?」
「いや、三時間だ。どうする? 帰るか?」
「……うん。帰って、薬飲んで寝るわ」
「そうか」
のそのそと私は服を身に着ける。
飾り気の無い下着、地味めな服。本当に私は冴えない女だと思う。
「……ねえ、貴正君」
貴正は、私がのろのろとしている間に服を着てしまっていた。
黒いシャツに、青いジーンズ。彼の服装は浮ついた感じが無く、私は好ましく思っている。
「なんだ」
「彼女できた?」
「いや」
「そう……。前から言ってるけど、私みたいなつまらない女、いずれ飽きるわよ」
「……」
「さっさと彼女つくって、私みたいなのとは関係切りなさい。性欲処理には使っても良いけどね」
「お前に不満は無いよ。下らんこと言ってないで、早く帰るぞ」
「……わかった」
私達は、ホテルを後にした。
†
深夜の住宅街を歩きながら、私達は軽口を叩いていた。
五月の夜は、それなりに涼しい。私はカーディガンの前を閉めた。
「別に送ってかなくていいのよ?」
「深夜なんだ。危ないだろうが」
「……私みたいな女、誰も襲わないわ」
「馬鹿なことを言うな」
「ふん、どうせ馬鹿よ」
「……」
貴正は、優しいと思う。誠実だし、もてると思うんだけどな。
どうして彼女をつくらないのだろう。あまり興味が無いのかな。
「君塚(きみづか)」
「なに」
「お前は?」
「……何が」
「恋人だよ。大学にいい人いないのか」
「……そもそも友達自体できてない。授業の班で一緒になった男子二人と女子二人。割合話せるのはその四人くらい」
「その男子に興味は無いのか」
「……別に。一人は今風の軽そうな子。もう一人は見た目クール系だけど、ウブそうだったかな。私の目、見ようとしなかったし。私の好みとはちょっと違う」
「お前の好みってどんな男なんだ」
「え? と、ね……。うーん」
ちょっと考えてみる。今まで私はどんな男子を好きになってきただろう。
どんな恋愛をしてきたか、思い出せない。というか恋愛自体よくわからない。
私が深く関わってきた男子は、貴正くらいしか思いつかない。
――案外、貴正みたいなタイプが好きなのかもしれないわね。
そう思ったが、なんとなく照れくさかったので、よくわからないと答えた。
「まあ、別にいいけどな」
貴正はそこで話をやめた。あまり興味も無かったのだろう。
そうしている間に、私の住んでいるアパートに着いた。
それなりに新しい、学生向けのアパートだ。
「ありがとう、送ってくれて」
「気にするな」
「寄ってく?」
「いや、いい。早く薬飲んで休みな」
「うん、……そうする」
「じゃあ、またいつか」
「じゃあね」
私は、彼の逞しい背中を見送った。
さて、レポートは明日と明後日の休日でやるとして、今日はもう寝よう……。
シャワーを浴び、睡眠薬を飲んで、その日は寝た。
憂鬱な気分のままで。
†
なんとかレポートは完成させた。心理学の授業でそれを提出し、英語の授業はなんとかこなし、月曜の授業は終わり。
そして今は学生ロビーで知人(友人という程、仲が良くない)とバスの時間待ちだ。
「でさあ、卵焼き焦がしちゃったんだけど、彼は美味しいって言ってくれてー」
「らぶらぶねえ、羨ましいなー。私の彼氏はそっけないのよねぇ」
知人達は楽しそうに談笑している。私はどうも女の子らしい会話が苦手で、話を振られるまで黙っていることが多い。
女三人寄れば姦しい。高校時代に集まっていたグループの女子は、集まれば他人の悪口ばかりだったので嫌な感じだった。大学の知人達は基本男子……というか彼氏の話ばかり。別に構わないのだけど、他に話すこと無いんだろうか。私だって、人のことは言えないんだけど。
「ねえ、君塚さんは? 彼氏いるの?」
「ううん。いないの」
「そっかー、でも気にするなって! いずれできるさー!」
「うん、そうね。そうだといいわね……」
本当に。本当にそう思う。
でも、私みたいな暗い女には、誰も振り向かないだろう。
「えー君塚さん彼氏いないの?」
横から聞こえてきたのは、授業で同じ班の、軽そうな男子の声だった。
その男子の隣にいるもう一人の男子も、同じ班の男子だった。
「なによぅ山村。盗み聞きとは趣味が良くないぞー」
「そんな大声で盗み聞きも何もないっしょ、なあ紀之」
「……まあね」
軽そうなのが山村で、クール系が紀之か。紀之とやらは肩をすくめる。
山村が私に近づいてきて、言った。
「今日この後用事ある?」
「……無いけど」
「フリーならさあ、今日これから遊びに行かねえ?」
「早速? 山村、あんたがっつきすぎよぅ」
女子達が囃し立てる。山村の見た目通りの調子いい性格は、高校の頃からそうらしい。
「どうだい?」
「ごめんなさい。今日は疲れちゃって……」
半分嘘だけど。こんな軽い男のナンパには付き合ってられない。
「あー、そっか。OKOK。また機会があったら誘うよ」
振られちゃったねーとか、女子達は言う。山村はフランクな感じに女子達に対応していた。人付き合いが上手いのだろう。私とは大違いだ。
それから、バスに乗って帰宅。私だけは途中で下車。知人達はほぼ全員終点まで行くそうだ。
停留所から五分も歩けば私の住んでいるアパートがある。ちなみに、アパートから十分の距離にはラブホテル。いつも私と貴正が使っているところだ。割合安めで、財布には優しい。
まあ、お金が勿体無いなら私の家か貴正の家を使えばいい話なのだが、貴正がそれは駄目だ、ぐだぐだな関係になるのはごめんだろう、と言ったので大人しく従っている。
お互い一人暮らしだから、節操無く求め合ってしまう可能性がある、ということなのかもしれない。
別に私は、そうなってもいいのに。
私は家に入るなり、鞄を足元に放り、ベッドに倒れこんだ。
面倒くさいと思う。何が、というわけではなく、何もかも。
貴正に抱かれているときだけは満たされるような気もする。体を求め合う、ということは安易な生き甲斐を得る方法なのかもしれない。
特に明日提出のレポートとかは無いから、このままだらだらしていようか。それともさっさと夕食を食べたりした方がいいだろうか。
「あー……」
面倒くさい。だるい。このまま死にたい。
だらだらしていると、唐突に携帯電話が鳴り出した。
マイナーなバンドの着信メロディ。これはEメールだ。
起き上がって、鞄の中から携帯電話を取り出した。
ネイビーブルーで、ストラップは無し。私の性格が表れてると思う。
中学時代の、彼氏からのメールだった。
彼とは別れた後も友達として関係は続いている。
そもそも、仲が悪くなったから別れたんじゃない。だから、いい関係のままなのは当然だ。彼とは、気が合いすぎたから別れた。
彼――木村正(きむら ただし)と私は、似たもの同士だった。
否、似たもの同士というよりも、同類。正と私は、同じ心の形をしていた。
正も、鬱病だった。鬱の他に、アレルギー体質――アトピー――でもあり、私よりもコンプレックスの根は深かった。
私達はお互いの傷を舐め合うように、恋愛関係に堕ちていった。
そんな爛れた関係が一年程続き、やがて正は言った。このままでは、僕達は成長できなくなる、と。そうして、私達は別れ、ある程度の距離を持った友達として接するようになった。
メールの内容は、簡単な近況報告と、私の現状を問う内容だった。文面は自虐で彩られ、相変わらずの暗黒系であることが分かる。そして、私に対しては優しいのも相変わらずだ。
『無理してない?』と彼は必ず聞いてくる。心配してくれるのは嬉しい。だが、彼の場合は自分のことを第一に考えるべきなのだ。
私は近況の後に、『大丈夫、心配しないで』と付け加えて返信する。彼を心配させたくはなかった。
恐らく、私達はまだお互いを好きなのだ。正のことは、失いたくないと思う。
「ふう……」
携帯電話を閉じる。そして鞄に放る。
なんだか急に、切なくなってきた。正直、愚痴を言いたい。
人間関係は疲れる。大学の授業も面倒。生きている意味も感じられない……。
無趣味なのがいけないのかもしれない。音楽もそれなりには聴く、本、小説もそれなりには読む。が、熱中する程好きではない。
机の上に置いてある、カッターナイフを無造作に掴んだ。
紅い柄の、お気に入りのカッターナイフ。それはリストカット用に使っていた。
カーディガンを脱ぎ、左手の袖を捲る。そこには、横に数本ほど切られた痕がある。半分ほどは既に治りかけ。
「……」
刃を少し出し、手首に当てる。
私はそこで思い直した。ベッドを汚すわけにはいかない。洗面所まで移動する。
鏡の前に立つ。
そこには見慣れた、無表情の女の顔がある。
不細工、とは思ってない。だけど少なくとも、美人じゃあない。
胸はそれなりでしかない。
ウエストは細いわけじゃない。
脚も長いわけじゃない。
私は、一体なんなのだろう……。
手首にカッターを押し当て、ぐっと押した。
皮を破り、肉を傷つける。
「……っ」
神経が痛みを脳に伝える。虚無感が、冷たい熱さによって上書きされる。
傷口からは、血が出て、球になる。
それから一気に横に引き、切り裂く。
「っ……うぅ……」
新しい目蓋から、赤い紅い涙が流れる。
――何がそんなに悲しいと云うのかしら。私はこんなに悦んでいるのに。
「ふふ……」
洗面台に血を落としながら、痛みを味わう。
痛い、痛い、痛い、痛い……。
鋭い痛みが脳に伝わってくる。
私はこれが落ち着く。
――ああ、生きている。
私はしばらく、痛みと言う悦びを感じていた……。
――遠いのよ、あんたは。
私は、いつもそう思ってる。
弁護士になるんだ、と目を輝かせて夢を語る姿を想う。
学園祭で、クラスの中心となって準備をする姿を想う。
私の親友は、いつも一生懸命で、ひたむきで、情熱的で。
私の、憧れだった。
目の前で、大学受験に向けて勉強している彼を見て思う。
――何故あんたは私なんかと一緒にいたがるのよ。
片や成績優秀で、社交的で、優しくて。
比べて私は勉強は苦手、内向的、性格は悪い。
どうしてこいつは私なんかと仲良くする?
と、彼は顔を上げ、問題集から私へと視線を向けた。
「疲れた? 休む?」
「私は休んでいるからいいのよ。それよりもあんたよ。よく二時間ぶっ通しで問題解けるわね。いい加減休みなさいよ」
私がこいつの家に来て、こいつは私に教えながら問題を解いた後、ずっと問題集に向かってる。どうしてこんなに勉強に夢中になれるのかしら。
簡単な話だ。こいつには、夢があるから。
「二時間のテストだってあるだろ? それくらいは集中できないと」
「ふん。私は集中できて三十分よ。悪かったわね」
「そんなこと言って。それより問題集どこまで解いたの?」
ん、と私の問題集を差し出す。
「……。もうちょい頑張ろうよ」
「うるさい。あんたと違って、三流の大学受けるからいいのよ」
「君だったら、もう少し上を目指せると思うんだけどなあ」
「無理。過大評価しないで」
ふん、と私はそっぽを向いた。余計なおせっかいだわ。
でも、そのおせっかいが私には嬉しい。だけど恥ずかしい。
まあいいや、と彼は問題集を閉じた。
そしてぐーっと伸びをする。
「何か飲む?」
「コーヒーだったら飲むわ」
「分かった、淹れるよ」
彼は立ち上がり、台所まで歩いていく。
居間のテーブルで私達は勉強している。
彼の両親は共働きで、土曜日である今日もいない。
大変な仕事なのだろう。
手持ち無沙汰な私は、ぼんやりと彼を眺めていた。
童顔で、可愛らしい顔つき。背は小さいが、筋肉質な体。私服のセンスも悪くない。
本当に、どうして私みたいな粗悪品を気に掛けるのかしら。
「出来たよ」
私の前に、カップを置く。
「ありがと……」
いい香りのするコーヒーを一口含む。
初めてこの家に来たときも、こいつはコーヒーで迎えてくれた。
普段の口調で、両親は仕事でいないから、とか言いやがった時は驚いたが。
この野郎、さては体目当てかと警戒したが、こいつだからそれは無いと考え直した。
「あんた」
「ん?」
「よく女の子と二人きりでいて、変な気分にならないわね」
「どうして変な気分になるのさ?」
きょとんとした顔でこっちを見る。
こうなのだ。
こいつはお子様だから、全然分かっちゃいないのだ! 高校三年生にまでなって!
意識してしまうこっちがおかしいのかと思ってしまう。が、おかしいのは彼だ。
「別に、何でもないわよ」
まあ、別にいいのだが。
こいつは私のことを異性とは認識していない。
だから、こいつは私に振り向くことは無い。
そういう意味で、安心していた。そして同時に、切なくも感じていた。
私はこいつの夢の達成の邪魔にはなりたくない。
私はこいつを応援している。
枷にはなりたくないのだ。
だけど、このままずっと、私を女として見てくれなかったら?
そう考えると、辛いのだ。今も少し、ほんの少しだけ、辛い。
「もう一時だね。お腹空かない?」
「そうね……。少し空いたかな」
「休憩ついでに、お昼ご飯食べに行こうよ。近くに美味しい定食屋があるんだ」
色気も全く、あったもんじゃない。
……だけど、別にいいか。
「そうね、行きましょうか」
一緒に時間を過ごせるなら、それで。
私は、いつもそう思ってる。
弁護士になるんだ、と目を輝かせて夢を語る姿を想う。
学園祭で、クラスの中心となって準備をする姿を想う。
私の親友は、いつも一生懸命で、ひたむきで、情熱的で。
私の、憧れだった。
目の前で、大学受験に向けて勉強している彼を見て思う。
――何故あんたは私なんかと一緒にいたがるのよ。
片や成績優秀で、社交的で、優しくて。
比べて私は勉強は苦手、内向的、性格は悪い。
どうしてこいつは私なんかと仲良くする?
と、彼は顔を上げ、問題集から私へと視線を向けた。
「疲れた? 休む?」
「私は休んでいるからいいのよ。それよりもあんたよ。よく二時間ぶっ通しで問題解けるわね。いい加減休みなさいよ」
私がこいつの家に来て、こいつは私に教えながら問題を解いた後、ずっと問題集に向かってる。どうしてこんなに勉強に夢中になれるのかしら。
簡単な話だ。こいつには、夢があるから。
「二時間のテストだってあるだろ? それくらいは集中できないと」
「ふん。私は集中できて三十分よ。悪かったわね」
「そんなこと言って。それより問題集どこまで解いたの?」
ん、と私の問題集を差し出す。
「……。もうちょい頑張ろうよ」
「うるさい。あんたと違って、三流の大学受けるからいいのよ」
「君だったら、もう少し上を目指せると思うんだけどなあ」
「無理。過大評価しないで」
ふん、と私はそっぽを向いた。余計なおせっかいだわ。
でも、そのおせっかいが私には嬉しい。だけど恥ずかしい。
まあいいや、と彼は問題集を閉じた。
そしてぐーっと伸びをする。
「何か飲む?」
「コーヒーだったら飲むわ」
「分かった、淹れるよ」
彼は立ち上がり、台所まで歩いていく。
居間のテーブルで私達は勉強している。
彼の両親は共働きで、土曜日である今日もいない。
大変な仕事なのだろう。
手持ち無沙汰な私は、ぼんやりと彼を眺めていた。
童顔で、可愛らしい顔つき。背は小さいが、筋肉質な体。私服のセンスも悪くない。
本当に、どうして私みたいな粗悪品を気に掛けるのかしら。
「出来たよ」
私の前に、カップを置く。
「ありがと……」
いい香りのするコーヒーを一口含む。
初めてこの家に来たときも、こいつはコーヒーで迎えてくれた。
普段の口調で、両親は仕事でいないから、とか言いやがった時は驚いたが。
この野郎、さては体目当てかと警戒したが、こいつだからそれは無いと考え直した。
「あんた」
「ん?」
「よく女の子と二人きりでいて、変な気分にならないわね」
「どうして変な気分になるのさ?」
きょとんとした顔でこっちを見る。
こうなのだ。
こいつはお子様だから、全然分かっちゃいないのだ! 高校三年生にまでなって!
意識してしまうこっちがおかしいのかと思ってしまう。が、おかしいのは彼だ。
「別に、何でもないわよ」
まあ、別にいいのだが。
こいつは私のことを異性とは認識していない。
だから、こいつは私に振り向くことは無い。
そういう意味で、安心していた。そして同時に、切なくも感じていた。
私はこいつの夢の達成の邪魔にはなりたくない。
私はこいつを応援している。
枷にはなりたくないのだ。
だけど、このままずっと、私を女として見てくれなかったら?
そう考えると、辛いのだ。今も少し、ほんの少しだけ、辛い。
「もう一時だね。お腹空かない?」
「そうね……。少し空いたかな」
「休憩ついでに、お昼ご飯食べに行こうよ。近くに美味しい定食屋があるんだ」
色気も全く、あったもんじゃない。
……だけど、別にいいか。
「そうね、行きましょうか」
一緒に時間を過ごせるなら、それで。
あなたの視線の先 見ているものは何かしら
私の視線の先 あるのはあなたの横顔
真面目なあなたは いつでも真剣なのね
そういう所、大好きよ でもあなたは私に振り向かないの
目標に向かって 堂々と歩む姿は
努力をたゆまぬ 格好良いあなたの姿は
いつも私の憧れだった
あなたを愛しているわ
でも私達は結ばれてはいけないの
私はあなたの枷にしかならないわ
だからあなたは私に振り向いてはいけないの
私達は結ばれてはいけないの
私達は結ばれてはいけないの
私の視線の先 あるのはあなたの横顔
真面目なあなたは いつでも真剣なのね
そういう所、大好きよ でもあなたは私に振り向かないの
目標に向かって 堂々と歩む姿は
努力をたゆまぬ 格好良いあなたの姿は
いつも私の憧れだった
あなたを愛しているわ
でも私達は結ばれてはいけないの
私はあなたの枷にしかならないわ
だからあなたは私に振り向いてはいけないの
私達は結ばれてはいけないの
私達は結ばれてはいけないの
小説の修正を行いました。
題名も変えたりしました。後は誤字などの修正。
こういうとき、ワードは助かりますね。文章校正機能。
修正した小説は新しい日付になってます。
題名も変えたりしました。後は誤字などの修正。
こういうとき、ワードは助かりますね。文章校正機能。
修正した小説は新しい日付になってます。
パソコン復活しました。
そして『創』の三章も書き終わりました。
追記にてどうぞ。
(修正しました)
そして『創』の三章も書き終わりました。
追記にてどうぞ。
(修正しました)
短編小説を書きました。
リストカット、女嫌い…など、自分に関するテーマを入れたつもりです。
好評だったら続きとかも考え中。
なので、感想とか待ってます!
(修正しました)
リストカット、女嫌い…など、自分に関するテーマを入れたつもりです。
好評だったら続きとかも考え中。
なので、感想とか待ってます!
(修正しました)
今回はそれなりに長くなりました。
結構頑張りました。
なので、是非感想とかをお願いします。
ジャンルは恋愛で間違ってないと思いますが、やっぱり少し暗いです。
(修正しました)
結構頑張りました。
なので、是非感想とかをお願いします。
ジャンルは恋愛で間違ってないと思いますが、やっぱり少し暗いです。
(修正しました)





